オテル リッツ パリ

最高の花嫁に、最高の支度部屋、
リッツパリのココ・シャネル・スイートを。

「ココ・シャネル」が愛したホテルだよと、

僕が言ったら…、

「うん、知っている」。

君は満面の笑みで答えたね。

君のシャネルスーツ姿はあまり見たことはない。

君がカメリアのコサージュをつけているのも見たことはない。

そう、シャネルのバッグを持っているのも、

No.5の香りがしたのも、僕の記憶にはない。

でも、それらを、確かに君は持っている。

「あのね。女の子にとってシャネルは特別なの」。

自慢気に君が答える。

コルセットでウエストや、その人生さえも縛っていた時代から、

女性を解放したのが、CHANEL・シャネル。

デザイン画にこだわらず、モデルにフィッティングさせてからも、

大胆に鋏を入れてより美しく見えるようにする。

子供のころ、

「ココの物語を必死に読んだわ」。

だからって、

ココ・シャネルも、彼女も、

フェミニズムを振りかざすなんてことはしない。

どこまで女性らしくいられるか。

どこまで愛する人との時間を大切にするか。

彼女が、ココに憧れて学んだのは、女性としての原点らしい。

「シャネルはね、特別な時に、特別な人と会うためにだけ許されるの」。

じゃあ、まだ僕は特別ではないってことかい。

「違うわ。ココのホームだった、オテル・リッツ・パリで、愛を誓うためにとっておいたの．．．」。

はにかみながら君は答える。

じゃあ、僕がここを選んだのは、

実は君の壮大な誘導だったってことになるのかな．．．。

「教えてあげない」。

いたずらっぽく笑う。

君の長い間の夢を、僕は前世から知っていたのかもしれない。

ホテル中のそこかしこに醸し出されているシャネルの息吹の中で、

僕たちの結婚式は、厳かに始まる。